
Abnormally Attracted To Sin
- 発売日:2009年5月19日 (US)
- レーベル:Universal Republic

CD
- Give
- Welcome to England
- Strong Black Vine
- Flavor
- Not Dying Today
- Maybe California
- Curtain Call
- Fire to Your Plain
- Police Me
- That Guy
- Abnormally Attracted to Sin
- 500 Miles
- Mary Jane
- Starling
- Fast Horse
- Ophelia
- Lady in Blue
- Oscar's Theme (UK Bonus Track)
DVD (Deluxe Edition)
- That Guy
- Welcome to England
- Strong Black Vine
- Ophelia
- Fast Horse
- Fire to Your Plain
- Curtain Call
- Not Dying Today
- Maybe California
- Give
- Police Me
- Starling
- 500 Miles
- Flavor
- Lady in Blue
- Abnormally Attracted to Sin

おながのレビュー

スタジオ・アルバム
ベスト・アルバム
ライブ・アルバム
American Doll Posse Tour のDVD を制作するにあたって、2007年秋から冬にかけて行われた US ツアーに Tori はカメラマン Christian Lamb を同行させた(彼は、ステージとステージ以外の場面を撮影した)。Christian Lamb によって撮影された映像に各地で録音したライブ音源をあわせて、ツアーの記録映像としてDVDに収録するつもりだったという。出来あがった映像を見たTori は、それらの映像が別の物語を想起させるものであり、新曲のヒントになったといくつかのインタビューで語っている。なのでこのアルバムは、American Doll Posse と密接な繋がりをもった作品である(The Road Chronicles / Visualettes *DVD収録の映像作品には、Doll Posse が登場しているし、アルバムに収録されている曲のうち、数曲は American Doll Posse Tour の最中に書かれたものである)。
個人的な体験に基づく作品(コンセプトアルバムではない)
"This album that I’ve just put out, to me it is not a concept album. It is a red-headed woman singing songs."(私がリリースしたこのアルバムは、コンセプトアルバムではありません。歌っているのは赤毛の女性です。*The News Tribune Interview より)
American Doll Posse が、ギリシャ神話に登場する女神たちをベースに構築された複雑なコンセプトアルバムだったのに対し、Abnormally Attracted To Sin は、Tori 自身の個人的な体験を反映させたパーソナルなアルバムだと彼女は語っている。パーソナルな作品とは言っても、幻想的な物語を彷彿とさせる楽曲(吸血鬼を想起させる Give など)も含まれているし、歌詞をそのまま文字通り受け取ると、作品そのものを誤解してしまう恐れがある。
Tori の言う個人的な体験とは、どのような体験なのだろうか。まず、Tori は、コンサート会場でファンと直に会う機会を積極的に設けている。そういう場で、ファンから聞いた話をもとに作曲された歌もある(Maybe California)。またいくつかの曲は、Tori 自身のことを歌っているようだ(Welcome to England のストーリーはフィクションだとしても、恋人の住む外国へ移住する女性が主人公という点で、Tori がモデルになっていると推測できる)。日常生活の一場面を簡素に描写したスケッチ風の曲もある(Oscar's Theme)。
Tori は、Comic Book Tattoo のプロモーションのため、2008年夏ロサンゼルスに滞在し、デビューアルバム Little Earthquakes を制作したとき(約20年前)に住んでいた地区を訪問した。そして、当時住んでいたアパート、教会を訪ね、歩き慣れた通りを再び歩いた。この訪問がTori にいくつかの曲を書くきっかけを与えたようだ。
「このアルバムの主人公は、Little Earthquakes をリリースした女の子だと思います。彼女は母親ではなかったし、20代でした。それから彼女は多くの出来事を通して、自分自身の心の声に気付きました。9枚のレコードを出し、 Abnormally Attracted to Sin をリリースするその女性は、自分の声をあげてきたことを知っています。」(インタビュー映像 Behind The Scenes: Abnormally Attracted To Sin より)
多分、この訪問によって彼女は、当時の境遇(Y Kant Tori Read の失敗…つまり音楽家としての挫折、性的な暴力による精神的・身体的なダメージを受けた犠牲者、信仰に情熱を抱けない牧師の娘、こういったトラブルによる心の傷)を改めて思い返し、そこを出発点として現在の自分(母であり、妻であり、成功した音楽家であること。艱難辛苦を乗り越えて精神的にタフになった女性)が存在していることを肯定したのかもしれない。
American Doll Posse で女性の持つあらゆる側面を徹底的に分析・追求した Tori は、Doll Posse の衣装を着る必要はなく、強固な自己を確立した赤毛の女性 Tori としてこのアルバムを発表したのだろう。
歌詞と映像(The Road Chronicles / Visualettes)
歌詞の内容を理解するには、Tori の発言(インタビューでの)が一番いいと思う。しかし、日本語に翻訳されたインタビュー記事を目にすることは、残念ながら無いに等しい状況なので、難しい。この作品に収録されている曲は、コンセプトアルバムではないので、各曲が独立した別々の物語であり、Scarlet's Walk のような連続したストーリーは存在しない。けれども、いくつかの曲では、Little Earthquakes 収録曲のように、ある種のストーリーを想起させる。たとえば、 Maybe California は崖から飛び降り自殺を試みている母親が主人公の物語であるし、Ophelia は、虐待的な関係を繰り返し選択している女性が主人公の物語である。Tori が頻繁に取り上げる宗教関連では、Strong Black Vine で宗教の不寛容な点について言及している。
もしあなたが、このアルバムに収録されている各曲の物語に興味があるのなら、DVD に収録された The Road Chronicles / Visualettes が作品読解のヒントになるだろう。最初に触れたが、Visualettes には Doll Posse が登場している。彼女たちは、女性が持っている性格の一面を端的に強調した存在なので、歌詞とその曲が示す物語や方向が暗示されている。
Isabel カメラマンであり、政治的な女性。
Clyde 理想主義者であり、心に深い傷を負った女性。
Pip 戦士。挑戦的・好戦的な女性。
Santa 官能主義で、セクシーな女性。美と官能、情熱の象徴。
サウンド
このアルバムに収録されているほとんどの曲は、ピアノを中心に置いたものではない。バンド演奏が基本であり、ピアノとキーボードは飽くまでもバンドの一員として機能している(弾き語りとそれに近い形の曲は例外として)。つまり、ピアノ主導で曲が進むというよりも、他のメンバーとのアンサンブルで聴かせる作品であり、特定の楽器にだけ焦点が当たる作品ではない。また、シンセサイザーやオルガンなどの複数のキーボードを大胆に導入し、曲の性格に合わせて各々の楽器の音色を豊かに使い分けている点で、特筆に値するだろう。Tori は常々コンサートでピアノとキーボード(オルガン)を同時に弾いているが、このアルバムでも複数の鍵盤を同時に弾いて、異なる音色を混ぜている。
Give - Bosendorfer, Synths
Welcome To England - Bosendorfer, Synths
Strong Black Vine - B3 organ, Synths (John Phillip Shenale)
* Strong Black Vine で、Tori はキーボードを演奏していない
Flavor - Bosendorfer, Rhodes, Synths
Not Dying Today - Rhodes, Organ
Fire To Your Plain - Bosendorfer, Synths
Abnormally Attracted to Sin - Synths, Organ
500 Miles - Bosendorfer, Synths
Starling - Rhodes, Bosendorfer
Lady In Blue - Bosedorfer, Synths
特に上記の曲は、異なるキーボードの統合が非常に上手く出来ており、そのサウンドをヘッドフォンで聴くと身震いするほど美しい。
ピアノとボーカルだけで演奏しているのは、Mary Jane のみ。Ophelia はバンドと一緒に演奏しているが、ピアノ主導で曲が進行するので、弾き語りに近い。Maybe California と That Guy は、弦楽器の重奏がバックで演奏している(2曲ともだいぶ雰囲気が異なり、互いに似ていない)。
アルバム全体について言えるのは、渋い雰囲気の曲が多く、親しみやすいメロディは少ない。
感想
アルバムのアートワークにも表れているが、とても大人っぽい雰囲気の作品で、退廃(decadence)という言葉がしっくりくる。大人向けの作品ですと言い切って、間違いのない作品だと思うので、聴く人を選ぶアルバムではないだろうか。精神的に未熟な人たちには、恐らくこの作品の本当の良さが伝わらないかもしれない。ちなみにタイトルのAbnormally Attracted To Sin は、Guys & Dolls (1955年制作のアメリカ映画)の主人公の台詞からとったもの。