


前作Scarlet's Walkから2年半のインターバルで発表された今作。
まず、音が全体的に明るくなっていて驚かされます。コーラスの重ね方がまた絶妙で、ゴスペルクワイヤーを取り上げたり、オルガン・アコギ・ベース・ドラムとのバランスを取ったアレンジを施しています(従ってピアノは控えめ。トーリのピアノを堪能しつくしたい!という人には物足りないか)。
詩の内容にも変化が見て取れます。特にM9 Ribbons undoneは、初期からのファンにとっては信じがたいほどに母性あふれる歌。かつて“情念の女”を地で行っていたトーリが…と思うと感慨深いものがあります。
つまり、このアルバムに住まうのは1人の満たされた母親であり、家庭を築いて幸せに暮らす女性。かつての彼女の作品には常に居た、孤独で常に何かを渇望する不幸な女を求めると失望する内容となっています。
とはいえ、音楽的完成度は非常に高く、かつてのエキセントリックだったトーリを知らないor苦手という方には抵抗なく聴けると思います。 (私も初期からのファンゆえ、正直今作は受け入れがたいのですが・・・)
ちなみに、輸入盤にはボーナスDVDが付いていて、"Garland"というアルバム未収録曲が入っているのですが、これがまた非常に美しく、CDに入ってないのがもったいないくらい。私としてはDVDのほうが良い収穫でした。
私が理解していないだけなのかもしれないが、他のアルバムに比べるとこのアルバムは生理的に受け入れられない。
声に祈りが足らない。
幸せな人が、何かを一生懸命探そうとしているような感じがして、なにか無理を感じる。とっても残念なのですが、何度も繰り返し聴けなかった。
Scarlet's Walkに続く、EPIC移籍後第二弾アルバム。
「二度と昔に戻ることはできない。苦々しくドン底にいる気持ちで、ひとりぼっちでアパートの部屋にいた人間。それはもう今の私ではないの」(LAUNCHによるStrange Little Girlsプロモーション・インタビューより引用)
この発言からも判るように、「一個人の苦悩」から「自分の属する社会の問題」へと作品を作る際の視点が変化しいるのが、はっきりと音と詩に表れている。Scarlet's Walkも従来のTori作品からは随分と変化しているのだが、この作品(The Beekeeper)での変化はことに著しい。
私が思うにToriに変化をもたらした体験とは、出産を経験し「母親」になったこと。そしてもう一つの大きな体験は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の渦中、偶然ニューヨークに居合わせたことではないかと思う。
長い前置きは置いておき、早速The Beekeeperを分析してみる。
まずToriの発声に着目したい。収録されているどの曲についても、すごく自然に声を発しており、極端な高音域の声が聴かれない。むしろ耳に優しい中音域とおばあさんの歌う子守唄のような低音域の声。怒りを声にそのまま表現するのではなく、一息ついて、冷静に考え、紳士・淑女的な大人な態度で歌っている。
次にピアノに着目すると、初期作品に聴かれるようなピアニスティックな、細かなパッセージは極力控え、和音を丁寧に弾くような打鍵を心掛けているようで、ピアノの音もこれまた耳に優しい。
音楽的に面白いのは、Barons of Suburbiaであろう。
Tori得意の変拍子を混ぜつつ曲を進める。6/8拍子→7/8拍子→9/8拍子→6/8拍子→7/8拍子→4/8拍子→7/8拍子→8/8拍子→7/8拍子→6/8拍子以下続く。ちょっと書き出すとこんな感じの譜面になっており、実際に演奏してみると、とても弾きにくい。
この曲をライブ演奏したCDを聴くと、こんな複雑な譜面だとは想像さえ出来ず、とても自然に感じる。言うまでもなく、Toriは作曲とピアノ演奏の「天才」なのだ。
最後に個人的な聴き方を。
嫌なことが連続で起こり、本当に滅入っている時、私にはToriの“優しい声”が薬のように必要で、このアルバムを聴く。そして少し元気になり、自分の中に変化が生じているのがわかる。また自分なりにやってみようと挫かれた心に栄養が充満する。
このアルバムは、「蜂蜜」と同様に高い栄養効果を心にもたらす作品だと思う。