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Under The Pink(アンダー・ザ・ピンク)

Under The Pink(アンダー・ザ・ピンク)

  • 発売日:1994年2月25日(日本国内
  • レーベル:イーストウエスト・ジャパン

収録曲

  1. Pretty Good Year
  2. God
  3. Bells For Her
  4. Past The Mission
  5. Baker Baker
  6. The Wrong Band
  7. The Waitress
  8. Cornflake Girl
  9. Icicle
  10. Cloud On My Tounge
  11. Space Dog
  12. Yes, Anastasia

レビュー、メモ

おながのレビュー

「人間の肌を引っ剥がせば、それがどんな人種であろうとみんなピンク色をしているでしょう?だから、このアルバムはその中にある世界についてなのよ。私達が隠している心の中のエネルギーについてなの。」(1994年3月プロモーション来日時「キーボードマガジン」インタビュー記事より)

"Under The Pink"というタイトルの意味を問われて、Toriはこのように答えている。収録された12曲は、心に出現する負の感情を丁寧に、曲によっては包み隠さずかなり露骨な表現で、音楽に置換えている。

歌われている詩の内容も決して明るく能天気なものではない。詩の内容を簡単に一行書きしてみる。
(2)God 父権社会への異議申し立てと女神の出現を礼賛(これはADPのテーマに通じる)
(6)The Wrong Band 不本意な環境や違和感を覚える人達と共に過ごすことの苦痛について
(7)The Waitress 同僚のウェイトレスに殺意を抱く女性について
(8)Cornflake Girl 同性間での裏切り行為に傷つく女性について
(12)Yes, Anastasia ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世の第4皇女(アナスタシア・ニコラエヴナ)について

負の感情を音楽に置き換え、重い気持ちを歌に託して語る場合、リスナーに心理的負担を過剰に強いる結果となってしまうことが多い。しかし、この作品は不思議なことに、詩の内容とは真逆の「気づき効果」をもたらしてくれる。このアルバムを聴くことによって、自分自身の中に存在する負の感情を気づかせ、心の中で燃え滾る嫉妬や恨み、あるいは憎しみの炎を沈静させることが出来る、癒し効果の高いアルバムであると思う。

ただし、Toriの癒しとは、「痛みの伴う本物の癒し」であり、巷で持て囃されている「痛みの伴わない似非癒し(卑しい)」とは異なるのでご注意を!

最後にアルバム・アートワークについてToriが語った内容を引用して終える。

「私が立っているこの世界はガラスで出来ているの。これは鏡のように物を映すことも出来るけど、人を傷つけることも出来る。でもそこにいる女の子は、ガラスの中を裸足で歩いて行けるほどに自分を信じているのよ。自分はもう犠牲者ではなくて、どこへ行くのかちゃんとわかっているの。このアルバムは"自分は犠牲者ではない"という意味での"次のステップ"なのよ。」(1994年3月プロモーション来日時「キーボードマガジン」インタビュー記事より)

ゆうこげさんのレビュー

デビュー作"Little Earthquakes"の世界的なヒットで一気にその名を広めたトーリ・エイモスの2作目は一転コンセプトアルバム。前作も十分センセーショナルでしたが、ここからトーリの女性としての先見性が発揮されていきます。

今回のお題は“女性同士の裏切り”。

例えばM8 Cornflake Girl、この曲は黒人女性作家アリス・ウォーカーの小説“喜びの秘密”の中で、女子の割礼(※注)に母親が嫌がる自分の娘を連れて行くという場面にトーリがインスパイアされて作ったそうです。

…少女にとって一番近く、最も信頼しているであろう母親からのこの仕打ち(裏切り)。トーリ曰く「女性同士の裏切りは男女間のそれとは違い今までほとんど語られてこなかったうえ、男性に裏切られたときよりずっと傷つく」といいます。

M7 Waitressも強烈な裏切りの歌。主人公は同僚のウェイトレスを涼しい顔をしながら影で"Bitch!"と罵る女です。一瞬ぞっとしますが同じ女性として“良くぞ言ってくれた!”と思わせるような痛快さもあり、女性の心理というか嫉妬心というものを上手く歌に昇華させた傑作です。

アルバム構成から見ると、前述の激しいリズムの曲とガラス細工のような繊細で美しい弾き語りとが非常にバランスよく配置されていて、とても聴きやすいです。イントロからマイナスイオン出まくりの(!)Pretty Good Yearから最終曲の大作Yes,Anastasiaまでの純度の高い音世界。特にYes,Anastasiaではクラシックピアニストも舌を巻くような荘厳なピアノが堪能できます。

デビュー作から引き続いてのCindy Palmanoのアートワークも美麗。トーリファンならずとも女性ならぜひ聴いて欲しい一枚です。

※注)アフリカの一部で現在も行われている女性器切除の慣習。激痛を伴ううえ、後遺症が残ったり感染症で死亡することもあり、欧米諸国では廃止運動が高まっている。

ユキエさんのレビュー

「彼女はあげるだけのものを貰うべきだった
お誕生日おめでとう、彼女の血が私の手についているわ
あの服は気に入っていたからちょっと残念よ
雨の中で見つけるものは不思議ね
モールで見つけるのも炭鉱で見つけるものも
彼女の髪の毛のこんがらがっている中に
見つけるものも」

これはイエス・アナスタシアの一節。
なにか殺意のようなものも感じるけど、そうゆうものをメタファーとして、女性の生理的なものを言葉の間から感じる。そして詩から受け取る映像に彼女のセンスのよさを感じる。

このアルバムはまるでガラス細工のように繊細だけど、破壊をあえて許すような恐ろしく壊れにくい部分もある。TORI AMOSがまだ不安定で、その揺れる感じが綺麗。呪いの様な言葉を吐き出しながらも、歌声は祈っている。

PVは宗教色が濃くて面白い。
「ゴッド」はインドの寺院で撮影したり(ヒンドゥー教ではネズミはガネーシャとともに描かれ、聖なる動物の一つ。この寺院はPVのようにネズミが放し飼いになっている様子)、新興宗教っぽいところで撮影されていたり、彼女の神に対する、同時に人々に対しての問いかけが感じられる。

「パスト・ザ・ミッション」で神父の前で体を横たえ、道を空けるシーンは何度見てもハッとしてしまう。彼女は女性らしい形で男性に道を譲ってもらったのだ。この頃のトーリは本当に綺麗。

タカユキさんのレビュー

ピアノ弾き語り、という印象が強いTori Amos。 だが、改めて聴いてみると「意外にも」色々な楽器やメロディで構成されている。

しかし不思議と、彼女の表現はピアノと歌で成り立っていると感じざるを得ない。 聴けば聴くほどに、ピアノと寄り添い、絡み合った歌が聴こえてくる。どちらもTori Amosの表現そのものであり、切り離しては考えられない関係なのだろう。

Janis Joplinにも感じるが、歌唱力や演奏技巧ではなく、本人の持つ人間性そのものを感じさせてくれる表現者だ。音楽的には全然違う、と笑われるかもしれない。しかしあえて言う。音楽的、なんてどうでもいいのだ。

Janisの持つ、力強さや土の香り、想いや情念を濃縮したような表現。それは音楽的、なんて言葉では分析不能だ。同様にTori Amosのそれは、夜露に濡れた蔓草のように艶かしく、生命力に溢れた美しさだ。

男である僕は、そこに女性の持つ根源的な「怖さ」すら、感じてしまう。だからこそ、歌詞の意味も知らなかった愚かな僕ですら、慄きそして涙してしまったのだ。